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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)2168号 判決 1989年5月30日

主文

一審被告の昭和六二年(ネ)第二一六八号事件控訴を棄却する。

昭和六二年(ネ)第二一六九号、第二一七〇号事件控訴に基づき原判決(昭和五九年(ワ)第一九一号)を次のとおり変更する。

一審被告は、一審原告に対し金九〇万六三六八円と内金二一万五八七六円に対する昭和五九年一一月一四日から支払済みに至るまで年五・三五パーセントの割合による、内金六七万八九四三円に対する平成元年三月一日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による各金員を支払え。

一審原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、控訴費用を二分し、その一を一審被告の負担とし、控訴費用の二分の一と昭和五九年(ワ)第一九一号事件の一審における訴訟費用とを四分し、その一を一審被告の負担とし、その余を一審原告の負担とする。

右第三項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  一審被告

1  原判決(昭和五九年(ワ)第二二号、第七二号)を取り消す。

一審原告の本訴請求を棄却する。

一審原告は一審被告に対し金四八〇万四三一九円及び右の各内金八万円に対する昭和五三年七月から昭和五八年六月までの各月の一日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による、内金四三一九円に対する昭和五八年七月一日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による各金員を支払え。

2  原判決(昭和五九年(ワ)第一九一号)中一審被告敗訴部分を取り消す。

一審原告の請求を棄却する。

3  一審原告の昭和六二年(ネ)第二一七〇号事件控訴を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審を通じ一審原告の負担とする。

5  右1の三項につき仮執行宣言。

二  一審原告

1  一審被告の昭和六二年(ネ)第二一六八号、第二一六九号事件控訴をいずれも棄却する。

2  原判決(昭和五九年(ワ)第一九一号)を次のとおり変更する。

一審被告は一審原告に対し金三二四万四五七九円と内金一一万一四二三円に対する昭和五三年三月九日から支払済みに至るまで年五・三五パーセントの割合による、内金一〇万四四五三円に対する昭和五三年三月一五日から支払済みに至るまで年五・三五パーセントの割合による、内金二一七万円に対する昭和五三年八月一日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による、内金八五万八七〇三円に対する昭和六〇年一二月一七日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による各金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審を通じ一審被告の負担とする。

4  右2の二項につき仮執行宣言。

第二  当事者の主張

次に付加するほか、各原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

ただし、昭和六二年(ネ)第二一六八号事件の原判決(昭和五九年(ワ)第二二号、第七二号)三枚目表一二行目の次に改行して「4 一審原告のその余の主張及び一審被告の主張に対する認否は後記反訴における主張及び認否のとおりである。」を加え、一三行目の「4」を「5」と改め、同裏六行目の次に改行して「3 一審被告の主張は後記反訴における主張、反論のとおりである。」を加え、四枚目表一一行目の「従って」から一二行目の「受けて」までを「一審被告は、組合の事業として、いったんアジ、サンマなどを買付け、これを組合員に売るという」とそれぞれ改め、同裏一行目の「ところで、」の次に「昭和五二年五月二八日の通常総会で一審原告を含む出席者全員の賛成により決議された昭和五二年度における冷凍サンマ、冷凍アジ、サゴシなどの共同仕入れの事業計画に基づき、」を、九行目末の次に「その結果、一審被告に約一億三〇〇〇ないし四〇〇〇万円の欠損金が生じたので、組合役員が連帯保証人になって、兵庫県信用漁業協同組合連合会及び太陽神戸銀行から金員を借受け、これで欠損金を補填した」を、一二行目の「議案が」の次に「一審原告を含む出席者全員の賛成で決議され」をそれぞれ加え、五枚目表二行目の「いずれも」を「一審原告代表者の妻が右議案に反対する意見を述べて退席した後」と、同裏一行目の「した」を「、一審原告代表者が右に反対の意見を述べて退席した後の出席者全員でし、同原告を除く組合員が右各決議に基づき分割賦課金の支払を終了した」と、四行目の「既に」から七行目の「八万円」までを「右各決議に基づき、右金五九八万五九四七円から後記のとおり自働債権として相殺の用に供した昭和五八年六月分の分割賦課金八万円の内金七万五六八一円と同年七月分から昭和五九年七月分までの各分割賦課金八万円及び同年八月分の分割賦課金六万五九四七円以上合計金一一八万一六二八円を控除した昭和五三年六月分から昭和五八年五月分までの各分割賦課金八万円と同年六月分の分割賦課金八万円の内金四三一九円の合計金四八〇万四三一九円及び右各月の分割賦課金八万円(ただし昭和五八年六月分の分割賦課金は金四三一九円」とそれぞれ改め、昭和六二年(ネ)第二一六九号、第二一七〇号事件の原判決(昭和五九年(ワ)第一九一号)三枚目裏一三行目の「そなえて」を「添えて」と改め、五枚目裏一行目末の次に「弁済期は全部につき昭和六一年七月末である。」を、六行目末の次に「弁済期は全部につき昭和五四年五月末である。」をそれぞれ加え、七枚目裏九行目の「の件が」を「の計画は」と改める。

(一審被告)

一  一審被告は、水産業協同組合法(以下法という)に基づき設立されたもので、法一条、四条に明らかなとおり営利を目的とせず、法九六条で準用する(以下法一条以外の規定について同じ)法二一条一項本文により組合員は各一個の議決権並びに役員及び総代の選挙権を有すると定められており、組合員の地位は株式会社などの営利を目的とする法人とは全く異なり、組合員の有限責任は株主などの有限責任と同一に考えられないところ、法二二条は、組合が債務弁済のために組合員から経費を徴することを認めているのであって、出資金を上回る巨額の事業上の欠損が出た場合、組合は営利を目的とするものでないから利益金でその損失を処理することはできず、したがって、法五五条三項に定める準備金で補填しきれない場合には、組合としては、組合員全員から損失分担金を徴収するか、破産するしかなく、法四八条一項七号により損失処理案が総会の議決事項とされていることからすれば、組合が総会決議により組合員に経費として損失分担のための特別賦課金を賦課することは許されている。また、本件のような経済的事業から生じた欠損の補填金が経費に該当しない場合にも右総会決議により同様に賦課が許される。けだし、そうでなければ、組合は破産するほかなく、組合役員に保証責任が追及されることになり、また、組合の破産が常態化することになって組合の信用が失墜し、法一条の趣旨に反することになる。一方、法五六条は剰余金の生じたときには組合員に配当を行うことを規定しているのであるから、欠損の生じたときには損失分担金を徴収して損失を補填することは衡平上当然である。

仮に、全員一致の総会決議によらなければ右特別賦課金の賦課ができないとしても、前記経緯などを総合すると、一審原告だけが総会で右議案に反対し分担金の支払を免れようとすることは、組合員として、著しく信義にもとり権利を濫用するものというべきであるから、右議案については、右総会において全員一致の決議があったと同視すべきものである。

二  一審被告は、一審原告に対し、前記のとおり、本件特別賦課金として昭和五三年六月から昭和五九年七月まで毎月末一ケ月金八万円宛て、同年八月末金六万五九四七円の合計金五九八万五九四七円の請求権を有するから、このうち昭和五八年六月分の分割賦課金八万円の内金七万五六八一円と同年七月分から昭和五九年七月分までの各分割賦課金八万円及び同年八月分の分割賦課金六万五九四七円以上合計金一一八万一六二八円と本件(三)の普通貯金二一七万円の残金三二万二九二五円及び本件(四)の普通貯金八五万八七〇三円の合計金一一八万一六二八円とを対当額で相殺する。

三  仮に前項の相殺が認められないならば、一審原告は、昭和六一年八月分以降の組合費月額二万円を不払いにしているので、右の月から平成元年二月分まで三一ケ月分の未払い組合費金六二万円(弁済期は全部につき平成元年二月末である。)と本件(三)の普通貯金二一七万円の残金三二万二九二五円及び本件(四)の普通貯金八五万八七〇三円の合計金一一八万一六二八円とを対当額で相殺する。

(一審原告)

一  本件特別賦課金は組合員に無限責任を課することを意味し、法一九条四項の定める組合員の有限責任に反する。法一条、二一条、二二条、四八条一項七号、五六条の各規定及び一審被告の定款は、いずれも本件のような欠損金を組合員各人に負担させうるとの根拠となるものではない。

本件特別賦課金賦課の議案に反対することが信義に反し、権利の濫用になるとの主張は争う。

二  本件特別賦課金請求権が成立しないことは前記主張のとおりである。

第三  証拠(省略)

理由

一  当裁判所は、一審原告の債務不存在確認本訴請求は認めることができ、一審被告の特別賦課金反訴請求は認めることができず、一審原告の貯金請求は本判決主文の限度で認めることができ、その余は認めることができないものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほか、各原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  昭和六二年(ネ)第二一六八号事件の原判決(昭和五九年(ワ)第二二号、第七二号)八枚目裏五行目の「漁類」を「魚類」と改め、一二行目の「第一」の次に「の一ないし九」を加え、一三行目の「第一四号証の二」を「第一号証」と改め、九枚目表四行目の「井上竹男」の次に「、当審証人藤井正雄」を加え、一〇枚目裏九行目の「決議した」の次に「(組合員三一名中一審原告を含む二七名が出席して全員賛成)」を、一一枚目裏一行目の「決議」の次に「(ただし欠損金額などは未確定)」を、同行の「出席した」の次に「(組合員三一名中一審原告を含む二八名が出席して全員賛成)」を、一二枚目表四行目の「組合員」の次に「(組合員三一名中二六名)」を、同裏八行目の「組合員」の次に「(組合員三一名中二四名)」を、九行目末の次に「一審原告を除くその余の組合員は右決議に従い右賦課金の支払を完了し、一審原告の分は一審被告の剰余金からその支払がされた。」を、一三枚目表一三行目の「原則」の次に「(一九条四項)」をそれぞれ加える。

2  昭和六二年(ネ)第二一六九号、第二一七〇号事件の原判決(昭和五九年(ワ)第一九一号)八枚目裏一一行目の「証拠はなく」の次に「(当審証人藤井正雄の証言によれば、定期貯金は、満期経過後払い戻し請求がない場合には書換継続として扱われていることが認められるので、満期の経過により直ちに遅滞とはならない。)」を加え、九枚目裏九行目の「これ」を「原審証人藤井正雄の証言」と改め、一〇行目の「乙」の次に「第一、」を加え、一二行目の「六月分」を「八月分」と改め、同行の「一九二万円」の次に「及び同年八月分から平成元年二月分までの組合費金六二万円」を、一〇枚目表六行目の「第四号証、」の次に「右」をそれぞれ加え、一一枚目裏五行目の「日々の」を「月月の」と改め、一二枚目表九行目の「主張」の次に「する」を加え、同裏九行目の「をもって」を「並びに本件特別賦課金請求権をもって原審及び当番で三回にわたり」と、一一行目冒頭から一三枚目表七行目末までを「まず、原審でされた第一の相殺においては、一審被告も一審原告も相殺に供される二個の自働債権と四個の受働債権との相殺の順序についての個別的指定をしていないところ、このような場合には各債権が相殺に供しうる状態となった時期の順に従うべきであり(最高裁判所判決昭和五六年七月二日民集三五巻五号八八一頁参照)、そうすると、もっとも早く昭和五四年五月末に相殺適状の生じた残さい収集料債権(前掲各証拠によれば、少なくとも、右債権は同日時に弁済期が到来し、組合費債権金一九二万円は昭和六一年七月末に弁済期が到来したと認められる。)と本件(三)の普通貯金債権(前記事実によれば、少なくとも、右債権は最終預入れ日である昭和五三年五月三〇日に、本件(四)の普通貯金債権は債権確定日である昭和六〇年八月三一日に、本件(一)の定期貯金債権は満期の昭和五四年三月九日に、本件(二)の定期貯金債権は満期の昭和五四年三月一五日にそれぞれ弁済期が到来したと認められる。)との間で相殺をすると、本件(三)の普通貯金元本は金二〇一万五五〇〇円となり、次に、組合費債権金一九二万円と、本件(三)の普通貯金残債権金二〇一万五五〇〇円とが昭和六一年七月末に相殺適状となるから、右組合費債権金一九二万円と普通貯金残債権金二〇一万五五〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることの記録上明らかな昭和五九年一一月一四日から昭和六一年七月末までの民法所定年五分の割合による遅延損害金一七万二六〇〇円(円未満四捨五入、以下同じ。)とを遅延損害金、元本の順に相殺すると、本件(三)の普通貯金残元本は金二六万八一〇〇円となる。次に、当審でされた特別賦課金請求権を自働債権とする相殺は右特別賦課金請求権が認められないから効力を生じない。そして、当審でされた予備的相殺においては、組合費債権を自働債権とし、本件(三)の普通貯金残金債権及び本件(四)の普通貯金債権が受働債権とされているから、まず組合費債権金六二万円(前掲各証拠によれば少なくとも平成元年二月末に弁済期が到来したと認められる。)と本件(三)の普通貯金残元本金二六万八一〇〇円及びこれに対する昭和六一年八月一日から平成元年二月末までの民法所定年五分の割合による遅延損害金三万四六三〇円との合計金三〇万二七三〇円との間で相殺がされ、本件(三)の普通貯金債権は元利とも全部消滅し、右相殺後の組合費残債権金三一万七二七〇円と、本件(四)の普通貯金債権八五万八七〇三円及びこれに対する訴え変更申し立て書送達の日の翌日であることの記録上明らかな昭和六〇年一二月一七日から相殺適状となった平成元年二月末までの民法所定年五分の割合による遅延損害金一三万七五一〇円とを遅延損害金、元本の順に相殺すると、本件(四)の普通貯金残元本は金六七万八九四三円となる。」と、八行目の「金一一八万一六二八円」から一二行目の「各」までを「、本件(一)の定期貯金の元利金一一万七三八四円、本件(二)の定期貯金の元利金一一万〇〇四一円、本件(四)の普通貯金残元本金六七万八九四三円の合計金九〇万六三六八円と内金一一万一四二三円及び内金一〇万四四五三円の合計金二一万五八七六円については訴状送達の日の翌日であることの記録上明らかな昭和五九年一一月一四日から支払済みまで約定利率年五・三五パーセントの割合による遅延損害金の、内金六七万八九四三円については平成元年三月一日から」とそれぞれ改める。

3  一審被告は前記のとおり本件特別賦課金の賦課が許される所以を主張するけれども、本件特別賦課金が法に照らしても、定款によっても、賦課しうる経費に該当せず、組合員有限責任の原則に反することは昭和六二年(ネ)第二一六八号事件の原判決(昭和五九年(ワ)第二二号、第七二号)理由三項に説示するとおりであり(なお、法一条、四条、二一条などから組合の非営利性が肯定されるとしても、そのことが組合員の有限責任を否定ないし緩和する根拠にはならず、法四八条一項七号は、損失処理案が総会の決議によらなければならない趣旨を定めたもので、総会の議決によれば組合員各人に損失を負担させうるとの規定ではなく、法五六条は剰余金配当が一定の制限に服する旨を定めたもので、このことから損失を組合員各人に負担させうるとの解釈は導かれない。)一審原告の同意又は同人を含む組合員全員一致の決議がなければ組合員個人である一審原告にこれを負担させることはできないというべきである(最高裁判所昭和五二年一二月一九日判決民集三一巻七号一〇九三頁参照)。本件において、右同意又は決議はなく、昭和五三年二月一〇日の総会において欠損につき組合員の連帯責任とする決議が一審原告を含む出席者全員の賛成でされたことも、右決議が欠損金額などの確定されていないものであることを考慮すると、これにより本件特別賦課金の賦課が肯定されることにはならない。そして、本件特別賦課金の賦課の議案に反対することは、信義に反することでもなく、権利の濫用にも当たらない。

二  よって、一審被告の昭和六二年(ネ)第二一六八号事件控訴を棄却し、昭和六二年(ネ)第二一六九号、第二一七〇号事件控訴に基づき原判決(昭和五九年(ワ)第一九一号)を本判決主文のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九五、九六条、九二条、八九条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

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